目を開く。足の重みが消えた気がしたのだ。ぼやけた目を凝らせば、大きな黒い犬(と言うと本人はへそを曲げるが、やっぱり似ている)が丸まっていた。
 布団から手を伸ばす。指を通る毛並はふかふかで陽だまりの暖かさに似ていた。小鶴が撫でるまま彼はじっと寝そべっている。
 障子が開き、「やあ」と叔父が顔を出す。
 額に大きな掌があてがわれ、その冷たさに息をつく。
「下がったなあ。横綱の湯たんぽが効いたか」
 叔父は腹を抱え出す。
 ポチ左衛門はフンと鼻を鳴らした。叔父の背を踏みつけ、部屋を横切る。揺れる腹は畳と随分近い。庭を輝かせる陽と共に、逆立った毛並はとても眩しく思えて、小鶴は目を細めた。

 その家には、大層立派な番犬がいる。


その湯たんぽ、取扱注意





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