さあっと風が渡り、涼やかな空気が髪を撫でた。夜明け前に去った野分は埃も湿気も洗い流したようだ。深い青天井にラムネ瓶を透かし、彼は瞬いた。黒い獣が映り込んだのだ。
「腹痛?」
 大層丸くて立派な祖父の使い魔はフンと鼻息を出す。
「ポチさん?」
 返事もできぬほど深刻なのかと侘助は屈む。が――ポチ左衛門はごろりと身を横たえた。拍子に紫色の花がぽろぽろ落ちてくる。桔梗だ。
「星屋さん、だと。少し休む」
 点々と落ちた花を辿れば、庭で市が開かれていた。小さな店主たちが花や小石を真剣な顔つきで並べている。姪の小鶴も居る。
 一抜けを宣言せぬ守り役の優しさに笑い、「お一つくださいな」と侘助は煌めく星の花を摘まんだ。





お代はラムネ水一杯





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